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第七章 翔平の告白

Auteur: 雫石しま
last update Date de publication: 2025-07-22 07:13:42

(この三年間はなんだったんだろう)

これまで萌香は、父親が犯した罪を償い、翔平に尽くしてきた。けれどよくよく考えてみれば、翔平の母親も自ら進んで父親が運転する車の助手席に乗り込んだのだ。萌香は、父親の事故がなければ、こんな人生を歩むことはなかったと何度も思った。翔平の母親を奪ったあの日が、彼女をこの結婚という檻に閉じ込めたのだ。

(お互い様だわ)

萌香は結婚指輪を外すとテーブルの上に置いた。ダイヤモンドの輝きは、三年間褪せることはなかったが、萌香にとっては自由を奪う錘でしかなかった。

(・・・・・)

翔平が他の女を抱いたベッドなど使う気にはなれない。怖気すら感じる。萌香は奥のゲストルームで夜を過ごそうと考えた。彼女は今夜の悪夢のような出来事を洗い流してしまおうとシャワールームに向かう。衣擦れの音が耳に響く、孤独な空間。鏡に映った自分は貧相に見えた。

(嫌だ、酷い顔をしてるわ)

浮き出た鎖骨、棒のような腕、心なしか胸も小さくなっている。華奢といえば聞こえは良いが、惨めだった。ただ、生まれ持った気品と美しさは枯れることはなかった。けれど、その瞳の奥には、暗い深淵が横たわっていた。

萌香はシャワーを終えたが気分は晴れなかった。たまにはアルコールでも飲もうかと冷蔵庫を開けたと同時に、勢いよく玄関の扉が開いた。翔平だった。

「萌香!帰ったぞ!」

「お帰りなさい、ってお酒飲んでるのね!?」

彼は行きつけのワインバーでグラスを傾けた。けれど萌香との諍いで心ざわめき、正体をなくしたところでタクシーに押し込まれた。耳まで赤らんだ彼の足取りは覚束なかった。

「なぁ、萌香」

「なに?明日も早いんでしょ?もう寝たら?」

萌香のつれない態度に頭を掻きむしった翔平は、ソファに座り込んだ。ふと見遣るとテーブルの上には見覚えのある指輪が光を弾いていた。彼の表情は凍りついた。

「俺がどれだけおまえを愛しても、知らん顔だ」

「いつ私がそんなことをしたの!?」

萌香は、これまで受けて来た仕打ちに、思わず声を荒げた。

「俺が死んでも、おまえはなんとも思わないんだろう!?」

「死ぬなんて軽々しく言わないで!」

三年前の交通事故。位牌になってしまった父や、白い菊の祭壇で微笑んでいた翔平の母親の遺影を思い出した彼女は本気で怒った。手元にあったクッションを翔平に投げつけたが、それは当たらず床に落ちた。萌香がここまで感情を露わにしたのは初めてだった。

「家に女を連れ込んでも平気なんだろう!」

「平気なわけないじゃない!」

萌香はゲストルームのドアを閉めた。翔平は、足元にスーツケースが置かれていることに気付き、それを足で蹴った。痛みが胸に刺さった。萌香を失うかもしれないという不安が押し寄せ、次の瞬間、ゲストルームのドアノブに手をかけた。

「離婚なんて許さない!おまえが俺を愛していなくても側にいろ!おまえはまだ俺に借りがある、一生かかっても返せ!」

翔平の目には、萌香を失う恐怖と、彼女を縛り付けたい欲望が交差していた。彼にとって、萌香はただの妻ではなく、彼の存在を証明する唯一の証だった。

「なに、ちょっと!やめて!」

翔平は萌香をベッドに押し倒すと荒々しく唇を奪った。翔平の手が萌香の肩を強く掴み、彼女をベッドに押し付けた。酒臭い息が首筋に触れるたび、萌香は全身が凍りつくような恐怖を感じた。

「翔平くん!」

彼女の叫びは、部屋の静寂に虚しく響いた。

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